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そしてその
バラの香りの中に
僅かに混じった
嗅ぎ慣れた香りを見つけ
振り返ろうとしたその時。
私のすぐ横を
一組の男女が通り過ぎていった。
ダークレッドのドレスに
温かそうな
ファーストールを巻いた
奇跡のような美しさを持つ貴婦人。
その隣には
美しい人に腕を差し出し
優雅にエスコートする
柔らかで上質な空気を纏う
支配階級の男。
温人、さん……?
私の夫が
私ではない女性と
親密な雰囲気を
隠しもせずに
寄り添いながら
堂々とホテルを出ていく。
ふたりとも
一度たりとも
私を振り返ることなく
夜の中へと消えていった。
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