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そっと目を開けると
部屋には再び暗闇が訪れていた。
微かな甘い香りを
敏感に嗅ぎとってしまい
これを彼が
私たちの家に
持ち帰ってきた事実に
心を打ち砕かれる。
この香りが
すべての答えだと思った。
もう何も
これ以上何も
彼に余計なことを
聞く必要はない。
あとは私が
自分で決めることだ。
起きていることに
気付かなかったのなら
私の頬に残る
涙の跡にもきっと
気付かなかっただろう。
いつだって
私がつらい時に
必ず差し伸べてくれていた
優しい手が
いまはひどく遠い。
温人さんと結婚してはじめて
”さみしい” と感じる夜だった。
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