プロローグ

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小さな口からとめどなく溢れる液体。それはサラサラとした水ではなく粘着質な液体で口角から流れるとゆっくり顔の輪郭、耳、軋んだ真っ黒な髪に染み込んだ。 今にも崩れ落ちそうな薄汚れた天井だけ、穴が空くほど見つめている彼女は僕の顔を見やしない。そしてきっと、心はもう死んでいるに違いない。 ネズミこそ現れないがこの部屋には何もない。何故ならここは屋根裏で、以前住んでいた人が鑑賞室として使っていたからだ。床も日中見てみると分かるのだが、大きな物を置いていた形跡や何かを引きずった跡がフローリングに刻まれている。 以前の住人はこの家に三十年近く住んでいたらしく、一階二階はキレイなフローリングが敷き詰められ、風呂やキッチンも最新な物にリフォームされていた。この屋根裏部屋は古い外観であるが、防音壁になっているのでただ彼女を閉じ込めておくには充分な作りとスペースである。 小さな窓から差し込む明かりに照らされてひょこっと顔を出す僕をちらりと見る美しい瞳はもうあの頃の輝きを失っている。今の季節、薄着で寝るには丁度いいため薄いTシャツ一枚でいる彼女の美しい身体に僕は釘付けになる。屋根裏部屋に乗り込んだ僕を見る彼女は恐怖に戦慄いている様子だ。 まるでこれからされる儀式を分かっているかのように。小刻みに震える細い足。柔らかい膨らみの中央、乳首の周りには僕がつけた紫色のキスマークが無数に咲いている。 今日はどういう方法で彼女を愛してあげようか。ゆっくり額にかかる前髪を撫でながら無垢な瞳にキスをしてやる。優しくしても抵抗する彼女は首を左右に振り、キスを嫌がった。 それを許さない僕は細い首に手を回す。蚊の鳴くような細い声で今更謝られても仕方ない。苦労して手に入れた彼女の首をぎゅっと力強く握りしめ、瞳を大きくさせる。死にそうになると彼女は恐怖からか首を絞める僕の手を握ってくれるのだ。最初は優しく包むように首に手を回し、だんだん雑巾を絞りあげるように力を加えてゆく。目の周りの皮膚が盛り上がり、瞳孔が爛々としてくるとやっと僕の顔を見て眉をひそめ、命乞いをするよう苦悶の表情をする。それがまた愛おしくてたまらない。 力を強くしていくと喉の周りの頸動脈がビクンビクンと波打ち、さらに必死に酸素を取り入れようとヒュッヒュと言う鳥のさえずりのような音が喉から漏れてくる。
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