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―……
今までで一番過酷かもしれないと思った。
待てども待てども、カーテンは開かないし、テラスにも人影はない。
夕方になりつつあるが、真夏の日差しを浴びて、いくら海風があると言えども辛い。
持ってたタオルを頭とカメラに掛けて、水分を取りながら待つ。
常に身体は伏せた状態。
日が沈みはじめてる。
完全に暗くなる前に撤退しないと危険を伴う。
どれくらいそこに居ただろうか。
もうダメだと思いかけた時、テラスに人が出てきたのがわかった。
レンズを通して誰か確める。
首もとのネクタイを弛めながら、煙草をくわえて火を着けているその姿は、間違いなく秋だった。
一服しに来たのか、テラスに少し身を任せて一人で海を眺めていた。
暫くすると、秋に動きが見えた。
秋が振り替えって手招きして誰かを呼んでいる。
俺はレンズから目を離して、肉眼で様子を確める。
建物から出てきたのは、紺のドレスを着た女。
期待に胸が高鳴る。
もう一度レンズを通して、その姿を確認する。
秋と並んでテラスに立つ姿。
俺は夢中でシャッターを切り始めた。
それは間違いなく秋篠葵だった。
秋と秋篠葵のツーショット。
沈む夕日が眩しくて、二人を捉えるのが難しくはあったが、俺は夢中でシャッターを切り続けた。
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