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人に対しての思いやりがあり、体力もあり、聞き上手で器用な温人なら、きっと多くの人を喜ばせることが出来るだろう。
「ユウさんにそう言って貰えると、ほんとに勇気がでます。頑張ります」
温人は触れていた勇士郎の手を、両手でぎゅっと包んだ。
「うん、オレ、応援する。きっとうまく行くと思う」
「ありがとうございます」
温人は心底嬉しそうに笑った。勇士郎も嬉しくなって、温人の肩に額をぐりぐりと擦りつける。
すると温人は笑いながら勇士郎を軽々と持ち上げて自分の膝の上に横抱きに乗せた。ぴったりと抱き合って、ぬくもりを分け合う。
優しく肩と髪を撫でられて、勇士郎はうっとりと目を閉じた。
(温人の手って、なんでこんなに気持ちええんかな……。あ、温人が帰るまえに、髪切ってもらわな――)
そう考えて、勇士郎はぱちりと目を開いた。
まだ大事なことを訊いていないことに気付いたのだ。
「あ、…あの、働くって、どこで働くん?」
腕の中から見上げると、温人はにこりと微笑んだ。
「理容室です。あれからずっと、雇ってもらえるとこ探してて。やっと今月末から使ってもらえるとこ見つかったんです」
「ほんま? うん、そぉか、良かったやん! 勉強しながら実地でも学べるってことやろ、すごいええやん」
「はい、そうなんです」
「……、え、えと、埼玉…なん?」
おずおずとした問いに、温人はますます笑みを深くする。
「いえ。千葉です。N市にある店です」
「そ、そっかぁ」
N市ならここからそう遠くはない。
勇士郎が、ぱぁっと顔を輝かせると、温人は楽しそうに頷いた。
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