【10】愛の讃歌

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「最初からそのつもりでした。少しでもユウさんの近くにいたかったから。そこで頑張っていれば、いつかまたユウさんに会えるかもしれないって。埼玉の祖父母も賛成してくれました。自分の行きたい所へ行って、生きたいように生きなさいって」 「うん…、うん……」  温人が祖父母たちに本当に愛されているのだとよく判る。それが勇士郎には、とても嬉しかった。   しかし、温人はどこに住むのだろうか。出来ればまたここに一緒に住んで欲しいけれど、あんな狭い部屋じゃ申し訳ないし、でも自分は狭いのが苦手だから、部屋を代わってあげても耐えられるか判らない。  いっそ引っ越すのがいいだろうか。でも温人はもう住む所を決めているかもしれない。  なにより自分から出て行けと言ったのに、今更戻って来てほしいなんて、そんなの虫がよすぎるだろうか――。  勇士郎が温人のセーターの裾を無意識にいじりながら、俯いてぐるぐると考えていると、フ、と小さく笑う声が聞こえた。 「ユウさん可愛い」  え、と顔をあげる間もなく、ガバリと抱き締められて、愛おしげに頬にキスをされる。  温人にはもう、すべて読まれてしまっているのだろう。勇士郎は赤くなった顔で、照れ隠しのように温人の肩をカプリと噛んだ。  
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