【1】おかしな出逢い

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 「煮詰まる」という言葉は本来、「議論や検討が充分に行われ、もうそろそろ結論が出る段階に近づいている状態」のことを言うそうだ。  だが、これを「行き詰まる」という意味合いで使う人がとても多いのだと何かで読んだ。  それでいくと今の勇士郎(ゆうしろう)の状態を表す言葉は、「煮詰まる」ではなく「行き詰まる」が正しいのだが、そんなことをまた考え出した自分が嫌になるほど、勇士郎は激しく疲れていた。  身体はしきりに「寝ましょうよ!」と訴えているのだが、脳がこんなギラギラとした状態では、寝返りばかりを繰り返し、言葉の洪水に溺れてしまうのがオチだ。経験上、それがよく判っていた。  勇士郎はギクシャクする身体を引きずり、愛車MINIのキーを掴むと、二日ぶりにマンションの玄関ドアを開けた。  眩い夏の陽射しが目に染みて痛いほどだ。  白のMINIのボディを力なくさすり、ドアを開けてムワア~ッとする空気を逃してから運転席に乗り込む。それからパン、とひとつ頬を挟むように叩くと、勇士郎はゆっくりと駐車場から出た。  行先は自宅から十五分ほど走った所にある、ブックカフェだ。  豊かな緑に囲まれたその店は勇士郎の行きつけで、こんな風に疲れたときによくフラリと出掛ける。  そこで軽くエッセイなどを読みながらハーブティーで頭をクールダウンさせると、昂っていた神経が少しずつ落ち着いてくれるのだ。
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