【4】ひとつの終わり

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 このマダム・ノワール役には、還暦を過ぎているとは思えないほどの美貌を持ち、圧倒的な存在感と凄みを持った大女優、辰己鏡子(たつみきょうこ)を迎えることになっている。日本人離れした彫りの深い顔立ちと、どこか不遜にも見える派手な立ち居振舞いなどがマダム・ノワール役にぴったりだ。   勇士郎は彼女のポートレイトをパソコンの脇に貼って、いつもそれを眺めながらイメージを高めていた。  ソウタという青年を考えたとき、勇士郎はふと温人のことを考えた。  温人はこの主人公とは少し違うけれど、生きることに不器用そうな感じは共通しているかもしれない。  どこか寂しげで、不安げな彼の雰囲気を思い出すと、ソウタの表情が自然にイメージ出来る気がした。  いつになく筆が乗って、第一稿は予定よりも数日早く仕上がった。 『いいじゃない。今回は初っぱなから、なかなかリアルで深みがあるよ』  河合プロデューサーから明るい声で電話があったときはホッとした。 『そうそう、昨日Kスタジオに行った時、偶然別の撮影に来てた(はなぶさ)くんに会ってさ、ふと思いついてこのドラマのこと話したの。そしたら興味あるって言うんで読んで貰ったんだけど、すごく好評でね、是非にって売り込んできたよ。全然イメージ違うから全く候補に入ってなかったんだけど、逆に面白いかもなって。ソウタ役は彼にやってもらおうかと思ってるんだけど」 「いいですね。新鮮かもしれないです」  英というのはブレイク間近と言われている若手俳優の英圭吾(けいご)だ。  蠱惑的な美貌を武器に、多くの女性ファンを獲得している。華やかで毒のある役をやらせたらピカイチだった。
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