【4】ひとつの終わり

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 翌日、河合と都内のカフェで待ち合わせをして、初稿を叩き台としながらの修正点や変更点などについて打ち合わせをした。  今回のドラマのチーフプロデューサーであり演出も担当する河合は、非常に濃い顔立ちをした四十過ぎの色男だ。若干チャラい印象があることは否めないが、仕事は出来る。  彼自身、バリバリの演出畑出身であり、学生時代は筋金入りの映画青年だったというだけあって、その意見やアドバイスはいつも非常に的確だ。  他のどのプロデューサーよりも、もしかしたら脚本家よりも、シナリオ造りの技術やセオリーに精通しているのではないかと勇士郎は常々思っている。  「なんか、高岡くん、ちょっと照りツヤが出て来たんじゃない?」  一通り打ち合わせが終わると、河合は三杯目のコーヒーを啜りながら、勇士郎の顔を見て、からかうように言った。  「照りツヤがある」というのは河合の口癖だ。どういう意味かは未だによく判らないが、たぶん色気が出ているとか、脂がのっているとか、そんなようなニュアンスなんじゃないかと勝手に解釈している。 「なんですか、なんも特別なことなんてないですよ」 「いやいや、なんかあったでしょー、フェロモン出まくっちゃってるもん。恋でもしちゃったぁ? それとも失恋とかかな?」  身に覚えのあることをずばりと言われて、その炯眼に舌を巻く。  辻野のことはともかく、恋でもしちゃったかという言葉に、何故か温人の顔が浮かんできてドキリとする。 「そんなヒマ、どこにあるんですか」  勇士郎は笑ってごまかすが、河合はニヤニヤしながら見ている。この人にウソをつくのは難しいとよく判っているので、勇士郎は早々に話題を変えた。  
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