【4】ひとつの終わり

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 その数日後、舞台にぴったりな妖しげなホテルを見つけたという河合達とともに、近隣の県までシナハンに同行させて貰った。  大正時代に建てられたというその洋館は、説明によると、いわゆるイタリア・ルネサンス様式の煉瓦造りで、ホテルになる前は個人の邸宅だったということだ。  古代ギリシャの神殿を思わせる円柱に、正面入り口の端整なステンドグラス、優美な曲線を描くベランダなどがとても見事だ。  しかし、建物全体にツタが絡まり、周りを囲む鬱蒼とした木々の影響もあって、どこか浮世離れした仄暗さも感じた。  ドラマでは主に夜間のホテルが舞台となるため、ライトアップの交渉も進めているとのことだ。この魅惑的な洋館が、闇夜に浮かび上がる様を想像するだけで、勇士郎はわくわくした。  ロケハンのあと都内に戻り、打ち合わせの席で英を紹介されて、初めて挨拶を交わした。 「わー、タカオカ先生ってほんとにイケメンなんだー、カッコイイー、つか綺麗!!」 「そうだよ、アイドルでも行けそうだろ」 「アイドルって、僕何歳やと思ってるんですか」  軽いノリの河合に苦笑する。  確かにデビュー当時から勇士郎の容姿は業界でもちょっとした話題となり、エンタメ系の情報誌などに取り上げられることは多かった。  中には仔犬を抱いて、などとワケの判らない注文を出されることもあり、丁重に断ったこともある。  まさにアイドルのような扱いに違和感を覚え、以来出来るだけその手の雑誌やWEBマガジンなどへの露出は控えるようになった。バンド時代の苦い経験もあってのことだった。 「今をときめく英くんにそんなこと言われたら、今度からオレ、覆面で来るからね」  二人から笑いが起こる。
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