【4】ひとつの終わり

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 ひとしきり和気あいあいと雑談をしてからドラマについての話に移ると、英の表情が引き締まった。キャラクターに関する意見を聞くと、彼が考えている人物像やアプローチ方法などをよどみなく伝えてくる。  お愛想ではなく、本当にあのホンを気に入ってくれていることは、具体的に読みこんだうえでの意見を聞けばすぐに判った。  テレビで見るよりもずっと理知的で思慮深げな佇まいに、これはイケると確信する。  物語の舞台とメインキャラクターの一人を目の当たりにしたことで、より具体的なイメージを膨らますことができた。  話し合った改善点などを踏まえながらすぐに第二稿へと入る。すでにキャラクターは生き生きと動き始めていた。  第二稿が上がったのは、辻野から届いた招待状の、出欠回答期限の少し前だった。執筆中もそのことは常に勇士郎の意識の片隅にあったが、机の奥にしまったそれを取り出すことがどうしても出来ず、期限が来ても結局返送することが出来なかった。    温人は積極的に就職活動をしているようだったが、なかなか面接をするところまでには行かないようだった。  勇士郎は励ましつつも、いつか温人がここを出て行ってしまう日が来ることを寂しいと思い始めていた。もっと一緒に今のままいられたらいいなどと考えて、自分勝手な考えに落ち込んだりもする。  辻野のことがあってから、少し感傷的になっているのかもしれない。今まで独りでいることに何の不自由も感じなかったのに、最近は絶えず胸の中を、冷たい風が吹き抜けているような気がしていた。
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