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【5】切ない予感
自宅のマンションまで戻ってくると、勇士郎は五階の自分の部屋を見上げた。その窓に明かりが点っているのを見てホッとする。
帰ってきたのだと思えて、ずっと緊張していた身体から自然と強ばりがほどけた。自分の部屋を見て、そんな風に感じたのは初めてだった。
勇士郎がチャイムを鳴らすと、すぐに温人が玄関ドアを開けてくれた。その顔を見たとたん、胸の奥がじわりと熱くなった。
「おかえりなさい」
「うん。…ただいま」
温人は勇士郎の持っていた荷物を持って、明るい室内へといざなってくれる。
「疲れたでしょう。お風呂入りますか」
「うん、せやな。温人は夕ご飯食べたん?」
「まだです。ユウさんがお腹すいてたら一緒に食べようかなと思って」
「ほんま? せやったらすぐ入ってくるから、ちょっと待っとって」
「はい、ゆっくりどうぞ。今日はオムレツですよ」
「オムレツ!? オレの好物やん」
「はい。準備しておくので、焼くのつきあってください」
「分かった、待っとり!」
勇士郎は自室に荷物を置いて、スーツを素早く脱ぐと、着替えを持って風呂場へと向かった。
温人が勇士郎の好物を用意してくれたのは、きっと今日、結婚式に出席したことへのご褒美なのだろう。
ここ最近の勇士郎の様子に、当然温人も何かを感じ取っているはずだ。けれど何も訊かずに、そっと勇気づけ、励ましてくれる温人の存在が、勇士郎には本当にありがたかった。
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