【5】切ない予感

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 風呂から出て、Tシャツとゆったりしたハーフパンツを身に着けると、勇士郎はほどよく冷房の効いたダイニングへと向かった。  温人がダイニングテーブルの上に、溶いた卵や刻んだ具を並べている。 「うわ、チーズも入れてくれるん?」 「はい、チーズとトマトとほうれん草のオムレツです」 「めっちゃ美味しそうやん」 「あとは具を入れて混ぜたらもう焼けます」 「よっしゃ、混ぜよ混ぜよ」  温人はわくわくした様子の勇士郎に微笑んで、細かくカットしたトマトと、予めレンジで下準備したほうれん草を、溶き卵の入ったボウルに入れた。そこにチーズと牛乳を加え、塩、こしょうを振ってから、ゆっくりとかき混ぜる。  そして勇士郎にボウルを手渡すと、温人はフライパンにオリーブオイルを落として、勇士郎がしっかり見ていることを確認してからゆっくり火を点けた。  リハビリの最初の頃は、つまみを回すまでに随分時間がかかったが、今では勇士郎の目を見てからすぐに点火出来るまでに進歩している。 「大分慣れたやん。もうそんな怖ない?」 「まだちょっと緊張しますけど、ユウさんがいてくれるので大丈夫になりました」  温人からの全幅の信頼を受けて、勇士郎はくすぐったい気持ちになる。温人に頼って貰えるのは純粋に嬉しかった。  オイルが熱せられたところへボウルの中身を静かに流し入れて、焦げ付かないように慎重に焼く。ほどなく良い匂いがキッチンに拡がり、勇士郎は久々に純粋な空腹を覚えた。  
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