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「来んな言うてるやろ!」
「ユウさん、すみません、不躾なこと訊いて。……でも、ユウさんがとても辛そうだったから、心配で、……それになんかちょっと、悔しかったっていうか……」
「……どういうイミや、悔しいて」
鼻をぐすぐす言わせながら、弱々しく訊く。
「そんなに想われて、辻野っていう人は幸せだなって。……そんなに長く、一人のひとを想っていたっていうのも、凄いことだって思いました」
穏やかで落ち着いた声に、勇士郎の心も次第に落ち着いてくる。
勇士郎は思い切って、布団からちょこっと顔を出した。
「……気持ち悪ないの? オレのこと」
「気持ち悪い? なんでですか」
心底解らないといった顔で温人が見る。
「だって、……普通、そうやろ」
「気持ち悪いなんて、言われたことあるんですか」
「――昔、……中学ん時、同じクラスのヤツにふざけてくっついたら『おまえ、なんかキモい』って」
そうだった。今まで無意識に封印してきたけれど、クラスに気になる男子生徒がいて、文化祭か何かの準備で遅くなったとき、ついすり寄るような仕草をしてしまったことがあったのだ。
当時は今より更に少女めいた印象だった勇士郎は、よくその手の噂になることがあった。
思春期の男子生徒からすれば、そんな噂の渦中に入ることは、とてつもなく恥ずかしいことで、それは相手の生徒も同じだっただろう。
けれど、キモい、の一言は鋭い刃となって、無防備だった勇士郎の胸を切り裂いた。
二度と迂闊な行動は取るまいと、その時、勇士郎は思った。自分はおかしいから、絶対に隙を見せちゃいけない、欲しがっちゃいけない、すべてはこの胸の中に。そう誓ったのだ。
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