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怖ろしい話に勇士郎は息を呑んだ。そこまで追いつめられていたとは思わなかったのだ。
「自分でも何をしようとしてるのか判りませんでした。だけど何か自分の周りに重たい膜が張っているみたいで、苛々して、気が付いたら髪をむしるように切り捨てていたんです」
その夜の、温人の恐怖と孤独を思うと、勇士郎の胸がキュウッと痛くなる。
「ほんとに気が狂っていたのかもしれません。きっともう、このまま何も幸せなことなんかないまま死ぬんだろうなって、思ってました」
「温人」
勇士郎が思わずカップを置き、温人の右腕を両手で掴んで見上げると、温人は話した内容とは裏腹に、柔らかい笑みを浮かべて勇士郎を見つめた。
「でもユウさんと出逢って、たくさん優しくしてもらって、俺は思い出したんです。誰かと話をすること、一緒にご飯を食べること、お酒を呑んだり、映画を観たり、そういうことがぜんぶ、ほんとに、すごく幸せなことなんだって」
温人は自分の腕を掴む勇士郎の両手を取って、いつかしたように大きな手で柔らかく包み込んだ。
「感謝してます、ユウさん」
真心のこもった言葉に、勇士郎の目が潤み、つと俯いてから、はは…、と笑った。
(アホやな、オレ……)
言葉にならないだけで、その「想い」はもうすでに、勇士郎の心の一番大切な場所に、しっかりと根を張ってしまったような気がした。
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