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【6】突然の訪問者
九月下旬に入り、急きょシナリオに大幅な変更が入った。予定されていた役者二名のやむを得ない降板に伴うものだった。それと同時に勇士郎は突然の眩暈と頭痛に襲われ、体調不良を抱えた状態で原稿と格闘し続けた。
なんとか第四稿を仕上げて河合にメールで送ると、そのまま倒れるように寝込んでしまった。
起き上がれない勇士郎のために、温人はバイトを休んで消化の良い食べ物を用意してくれたり、薬や着替えを用意してくれたりと手厚く介抱してくれた。
夜、勇士郎を着替えさせ、ミネラルウォーターのボトルを枕元に用意してからベッドを離れようとした温人を捕まえて、勇士郎はぼんやりする頭で、その胸に顔を埋めた。清潔なシャツの匂いがしてひどく安らぐ。
温人は戸惑うような素振りをしたが、勇士郎の手を払ったりはしなかった。
優しい手が勇士郎の髪や肩を撫でてくれると、ものすごく満たされて、身体中の細胞が癒されてゆくのが判った。
「そばにおってくれたら眠れる気がする」と言うと、温人は黙ってベッドに入り、勇士郎を抱き締めてくれた。
その優しい腕の中で、勇士郎はかつてないほどに穏やかで、深い眠りに落ちていった。
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