【6】突然の訪問者

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 その数日後、ニュースで中秋の名月だと知り、快復した勇士郎は、温人とお月見をすることにした。  温人が昔よく、祖父母と昔ながらのお月見をしたというので、ススキとお団子を用意しての本格的なお月見だ。  夕食後、それぞれ風呂に入ってさっぱりしてから、ベランダに出た。  よく晴れた夜空は雲もほとんどなく、まんまるに満ちた大きな月が神々しく輝いている。  今日はワインではなく、日本酒を用意した。なみなみと注がれた杯に、月を映して乾杯する。 「旨い!」 「旨いですね」  顔を見合わせて、二人でフフ、と笑った。  しばらく綺麗な月をうっとりと眺める。 「オレらって大人やなあー」 「なんですか、それ」  温人が楽しそうに笑うので、勇士郎も楽しくなってはしゃいでしまう。 「だって月見酒とかしてまうんやでー、大人やーん、めっちゃええカンジ~、おしゃれ~~」  たった一杯の酒ですでにご機嫌な勇士郎を、温人が面白そうに見ている。細められた目がとても優しくて、まるで歳の離れた兄が稚い弟を見るような、慈しみ深い眼差しだ。  勇士郎は火照るほっぺたをベランダの柵の上に押し付けるようにして、上目づかいに温人を見た。 「なぁ、……温人って、ええ名前やな……、なんか優しいカンジして…オレ、すごい好き」 「……ユウさん、ちょっと、あんまり……、かわいいこと言わないでくださいよ」  温人がうろたえたみたいに言うので、勇士郎はもっと楽しくなって、温人の太い腕にしがみつき、立ったままゆらゆらと揺れた。
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