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「俺ですか、俺は…、静かな子供だったと思います、たぶん」
「うん、そんな気ぃする」
「両親が店で忙しかったから、あんまり構ってもらうこともなかったし、よく独りで絵本とか読んでました」
「絵本かぁ、そうなんや。……そういえば、似顔絵、あれからまた増えたん?」
「いえ、今はもう。ユウさんにああ言って貰ってから、自分でもなんか納得できたというか、これでいいんだなって。いつも忘れないで、二人の顔を思い出していればいいんだなって、思えたんです」
「そぉか」
「はい。…ありがとうございます」
勇士郎はちいさく首を振った。きっと勇士郎のほうが、温人に助けて貰っていることは多いだろうと思う。
「いつか、ユウさんを案内したいです。俺の住んでた所の近くに綺麗な渓谷があって、よく近所の友達と遊びに行ったりもしました」
「そうなん? 連れてってくれるん?」
「はい、紅葉の時期とかは、ほんとに凄く綺麗なのでユウさんに見せたいです」
「楽しみにしとる」
「はい」
「……オレは、本当に小さい頃は、割と友達は多かってん。でも中学入った頃から、自分は人とちゃうんやなって思って、……前に話したけど、嫌なこともあったし、それからはあんま人とつきあうんが好きやなくなってん」
「……」
「まあ、大人になってからは、表面上ではうまく人とつきおうとるけど、でもやっぱ今でもちょっと苦手やな。……でも温人は別やで。温人はなんでか知らんけど、初めっから話しやすかったんや」
「ほんとですか。嬉しいです、すごく」
裏表のない言葉に、勇士郎は安らぎを感じると同時に、どこか焦燥めいた感情も覚える。
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