【3】届いた招待状

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【3】届いた招待状

 温人がここへ来て十日ほど経った。   体調も少しずつ戻っているらしく、とりあえず単発のバイトをしながら、ハローワークにも頻繁に通っているようだった。  バイトの日当が入ると、その都度、勇士郎から借りていた食費をちゃんと返してくれる。止められていた携帯も復活したとかで、早速連絡先の交換をした。  温人をここへしばらく置くと決めたときには、赤の他人を自分の最もプライベートな空間へ入れるのだから、当然、相当なストレスを抱えることになるだろうと覚悟していた。  だがフタを開けてみれば、ストレスどころかむしろリラックスしている自分に気付き、勇士郎は内心ひどく驚いている。  執筆の息抜きにつきあって貰うこともしばしばだった。  ひと段落ついてリビングで一服していると、温人も就職情報誌を閉じて、「栗原屯所」から出て来てくれる。  コーヒーを淹れるのは勇士郎の仕事だ。温人はまだ火を使うのが怖いようだった。  だが温人も勇士郎といることに徐々に慣れてきたらしく、しばしば自分から話しかけてくるようになった。  勇士郎は本を読む時は、自室ではなくリビングで読むことが多いので、リビングの隅には小型の本棚が置いてある。そこには一般書に加えて、今までの仕事で使った参考文献や専門雑誌なども数多く並んでいた。  温人がここへ来た当初、興味深そうに見ていたので自由に読んでいいと言ったら嬉しそうな顔をしていた。  以前勤めていた会社の休憩室にも本棚が置いてあって、自由に借りられたのでよく読んでいたそうだ。温人が本好きなのは、勇士郎にとっても嬉しかった。
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