路地裏の喫茶店

10/16
前へ
/16ページ
次へ
私はトイレに行きたくなり、カウンターの奥に向かった。 トイレのある場所からはキッチンが見えたが、キツネ目のマスターの姿はなかった。 そして、トイレから出た私は、好奇心に負けてこっそりとキッチンに入った。 床も壁もキッチン道具も、ピカピカで綺麗に整理されている。 奥には立入禁止と書かれた扉とガラス戸があった。 ガラス戸を覗くと、そこは小さな庭になっていて、いくつもの奇妙な形をした草花と、植木には見た事もない赤い実が生っていた。 紅茶の葉だろうか。 ふと庭の隅に、木で出来た墓標が立っているのが見えた。 そこには、「クロウの墓」と書かれていた。 戸には南京錠がかけられ、開ける事は出来なかった。 ―クローは死んでる……? なら、さっき見たのは? 私が戸惑っていると、突然扉の向こうから女性の叫び声のようなものが聞こえた。 キツネ目のマスターが戻って来ないかドキドキしながら、私は立入禁止の扉の前に立った。 頑丈で重そうな扉は、触ると少しひんやりとした。 閉まっているかと思いきや、扉はほんの少し開いていた。 取っ手を引くとギギギと重い音を立てながら開き、中は薄暗く何やら血生臭い悪臭がした。 そして、微かに女性が呻くような声が聞こえる。 私は誰もいない事を確認すると、扉の先に足を進めた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加