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私はトイレに行きたくなり、カウンターの奥に向かった。
トイレのある場所からはキッチンが見えたが、キツネ目のマスターの姿はなかった。
そして、トイレから出た私は、好奇心に負けてこっそりとキッチンに入った。
床も壁もキッチン道具も、ピカピカで綺麗に整理されている。
奥には立入禁止と書かれた扉とガラス戸があった。
ガラス戸を覗くと、そこは小さな庭になっていて、いくつもの奇妙な形をした草花と、植木には見た事もない赤い実が生っていた。
紅茶の葉だろうか。
ふと庭の隅に、木で出来た墓標が立っているのが見えた。
そこには、「クロウの墓」と書かれていた。
戸には南京錠がかけられ、開ける事は出来なかった。
―クローは死んでる……? なら、さっき見たのは?
私が戸惑っていると、突然扉の向こうから女性の叫び声のようなものが聞こえた。
キツネ目のマスターが戻って来ないかドキドキしながら、私は立入禁止の扉の前に立った。
頑丈で重そうな扉は、触ると少しひんやりとした。
閉まっているかと思いきや、扉はほんの少し開いていた。
取っ手を引くとギギギと重い音を立てながら開き、中は薄暗く何やら血生臭い悪臭がした。
そして、微かに女性が呻くような声が聞こえる。
私は誰もいない事を確認すると、扉の先に足を進めた。
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