路地裏の喫茶店

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始めて店の中に入ったのは、中学生になった時。 学校の帰り道、親友の優子ちゃんを誘ってお店に来た。 クロウはどこかに遊びに行っているのか、見当たらなかった。 扉を開けると、ガランガランと低いベルの音が鳴った。 少し緊張しながら店に入ると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。 中は思ったより広く、天井も高くて、ステンドグラスのライトが輝いて綺麗だった。 店内にはお客が何人もいたけれど、あの頃とは違い追い出される事はなかった。 「いらっしゃい。中学生になったんだね」とマスターがやって来て、お祝いにと私にミルクティーをご馳走してくれた。 温かくてほんのり甘く、少し変わった味がした。 けれど、今までに飲んだ事がないほど美味しかった。 体の弱かった優子ちゃんには、特製のグリーンティーを出してくれた。 「少し苦いけれど、元気が出てきそう」と優子ちゃんが微笑んだのを、今でも覚えている。 マスターはとても優しい人で、私と優子ちゃんは毎日のようにお店に行った。 けれど、いつの間にか行かなくなってしまった。 理由は……思い出せない。 あんなに大好きなお店だったのに。
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