路地裏の喫茶店

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あれから何年が経っただろう。 「あの頃と変わっていないといいな」 そう思いながら、私はクロウの後をついて行った。 路地裏の突き当りを曲がると、そこにはあの頃と同じレンガ造りの喫茶店があり、入口には「エイギョウ中」と書かれた札がかけられていた。 クロウは、そそくさと犬用の扉から中に入っていった。 きっと扉の先にはコーヒーの香りが広がり、お客は優雅なひと時を過ごしている。 そして、見た目は熊さんだけど、優しいマスターが笑顔でミルクティーを出してくれる。 そんなイメージをしながら、私は扉をゆっくりと開けた。 ガランガラン あの頃と同じ低音のベルの音がして、私は懐かしさに胸が高鳴った。 しかし、中に入ると漂うのはコーヒーの香りではなく、テーブルでお客らが吸っている煙管と口から吐き出された白い煙。 それに、不快なほど甘ったるい香りだった。 私は、あまりの光景に店を出ようとした。 けれど、閉まった扉はどんなに押しても開かなかった。 「いらっしゃい」 焦る私の耳に、聞き覚えのある声がして安心して振り返った。
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