路地裏の喫茶店

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しかし、そこに現れたのは大きな熊さんのようなマスターではなく、痩せた体にうさ耳の変な帽子を被ったキツネ目の男だった。 胸にマスターと書かれたバッジをつけ、何やら熱々の料理を丸盆に乗せていた。 声は似ていたが、まるで別人だった。 私はマスターが変わったのだと、悲しく思った。 キツネ目のマスターは、丸盆に乗せた料理を客の前に置くと、私の方へ近づいて来た。 料理を出された年配のお客は、ガツガツと音を立てて食べ始めた。 「おひとりですか?」 キツネ目のマスターが言った。 「い、いえ……、その……」 「まぁまぁ、席は空いてますから、遠慮なくお座りください」 「私、やっぱり帰ります!」 言い表せないような不安感に襲われ、私は店を出ようとした。 けれど、やはり扉はガチャガチャと音を立てるだけで、開く事はなかった。 「そんな大きな音を立てると、他のお客さんにご迷惑ですよ」 キツネ目のマスターは、細い目をさらに細くした。 それと同時に、店内で寛いでいたお客全員がこちらを向いた。 私は怖くなり、渋々案内された四人掛けテーブルに座った。 「どうしました? 顔色が悪いですね」 キツネ目のマスターは私の顔を覗いて言った。 「お店の、この甘い香りがちょっと苦手で……」 「それは申し訳ない。すぐに換気しますよ。ま、でもすぐに慣れると思います。それで、飲み物は何にしますか?」 「それじゃ、あの……、ミルクティー……って、ありますか?」 「もちろんありますよ。ミルクティーでよろしいですか?」 「……はい」 キツネ目のマスターは、軽く会釈をするとカウンターの奥に姿を消した。
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