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「そのうち、父さんあたりが乗り込んでくるかも――ちょ、イタ! 痛いって真澄さん!?」
晴の悲鳴に我に返り、ぱっと手を放した。赤くなってしまった場所を、労わるように撫でる。
「まあ、なるようになるさ」
「……殴られる練習をしておきます」
「そのときは、僕が返り討ちにしてやるよ」
真澄の記憶によれば、晴の父は恰幅が良い。貧弱でもやしっ子、絹ごし豆腐とまで呼ばれた晴など、鼻息で蹴散らしてしまえるだろう。
「俺も、話をしたいです。あなたの家族と」
「僕が、真澄の家族と話したように?」
「はい。殴られても、どういう結果になっても、話がしたい。なにもせずに、気づかないままで過ごすのは、もうごめんです」
晴のようになれるとは、真澄は思わない。わかりあうことはできないかもしれない。別れろと言われるかもしれない。それでも、話をしよう。話がしたい。
「あとさ、もう1つ気づいたんだけど」
「……今度はなんですか。これ以上動揺したら、うっかりあなたの手をへし折りそうです」
「お願いだから思いとどまって。今、動物病院のステラの名前って『朝比奈ステラ』なの」
「そうですか」
「もし、もしだよ? なんやかんやあって『宇佐木ステラ』になったらさ、やばくない?」
「それは……」
真澄と晴は、この世の幸福すべてが詰まったような顔で眠るステラを見下ろす。そして、ほとんど同時に叫んだ。
「可愛すぎか!」
仲睦まじくぴったりと身を寄せ合う2人を、ステラだけが見ていた。
〈おしまい!〉
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