〈2羽〉

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「ミニウサギがそういう名前の品種じゃなくて、雑種のことを差すのだと昨日知りました」 「ああ、ミニってついてるから大きくならないって思う人多いみたいだね。必ず大きくなるわけじゃないけど、個体差はかなりあるよ」 「ステラさんは何キロくらいなんですか?」 「1.3キロくらいかな。これでも身体は大人だから、もう大きくならないよ。でも、僕はこの子が5キロの巨体になっても愛せる自信があるね!」  晴は、更にでれっと相好を崩して、ステラのケージを抱えるようにすり寄った。 「あ、そうだ」  晴は突然ケージの前から立ち、テーブルに置いてあった紙の束を真澄に渡した。A4の紙が10数ページほどクリップで束ねられている。  1番上の紙に晴の手書きで『うさぎのきもち!』と書かれていた。 「飼育指示書だよ。一通り書いておいたから読んで」 「この『うさぎのきもち!』ってなんです? キモイです」 「キモイ言うな。にゃんこのきもちとか、わんこのきもちって雑誌あるじゃん? あれ的な」  真澄がぱらっと表紙をめくると、中は両面がびっしりと文字で埋まっていた。パラパラと流し見ると、表やイラストも書き添えてある。大事そうなところに、あとで赤線を引くことにする。 「それから……はい、これ。なくさないでね?」  晴はポケットから出したスペアキーを真澄に手渡した。  受け取った真澄は「まるで同棲を始めるカップルのようですね……」と内心激しく動揺していた。だが動揺は鉄面皮と気合と根性で隠した。 「ほんとに俺に任せていいんですか? 譲ってくれた方に預けるとか」 「その子、遠くに引っ越しちゃったから、ちょっと無理なんだ。他にうさぎ飼ってる知り合いいないし、動物好きで責任もって世話してくれる人って考えたら、真澄が面倒みてくれたらなって。だから、よろしくお願いします」 「ステラさんのためですからね、しっかり面倒見ますよ」 「やった! さすが真澄、頼りになるー!」  真澄は晴に頼られている幸福をひっそり噛みしめる。
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