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晴は自分がいるうちにステラを真澄に少しでも慣れさせようと、ケージの扉を開けた。
しかし、ステラはケージの角に尻を押しつけるようにして座り込んだままだった。緊張からか、肩や首が強張っているのが真澄にもわかった。
「うーん。やっぱすぐには難しいかなあ。真澄、顔怖いから。もっとにこやかに。ほら、ニコーって」
「ハァ?」
「ていっ!」
気を抜くとでれっと緩みそうになるのを隠すために変に強張った真澄の口角を、晴は指で押し上げた。
「笑顔になる魔法カッコ物理カッコ閉じ。ああ、ほらほらイイ感――」
晴の細い指を、真澄は鬼のような速さでがっと掴んだ。晴に触れられた口元の熱さに動揺し、ついミシミシと指を締め上げてしまう。
「イタタタ! ちょ、待って、ミシミシ言ってる!」
「気易く触らないでください。間抜けが移る」
晴の悲鳴は右から左に流れ、ギリギリと締める。すると。
――ダン!
ぐわ~んと、大きな音が1度響いた。はっとして真澄が音のした方を見ると、丁度ステラが後ろ脚を踏み鳴らした瞬間だった。
――ダン!
「今のは……ステラさんが?」
「きっと、怒ってるんだよ」
「怒ってる?」
「真澄が僕に危害を加えてるってわかったんだよ。だから警戒して、怒ってんの」
はっとして、真澄は晴の指を解放する。
晴はその指をステラの鼻先に伸ばし、ちょいちょいと擽るように触れた。
「ほら、ステラ。大丈夫だよ~」
晴の指を、ステラがピンク色の小さな舌でぺろぺろと労わった。
「賢い方ですね」
「そうだよ。ステラは特別賢いんだから」
ねえ? とステラの背中を撫ぜる晴を、真澄はやさしい眼差しで見つめた。しかし晴が振り向くと同時に、優しさは霧散してしまった。
「あ、いいこと思いついた!」
「いいこと? なんです?」
「ステラが真澄にちょっとだけ懐く方法!」
真澄の目がきらりと輝く。
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