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晴はケージの扉を開けたまま壁際まで下がり、フローリングに直に座った。そして隣をポンポンと叩き、真澄を呼ぶ。
真澄はどきどきしながら、拳1つ半分の距離を置いて腰を下ろす。
「それじゃダメ」
真澄が敢えて開けたスペースを晴の方から詰めた。肩が触れ合い、真澄はびくりとして腕を振り上げる。
「待って待って! ちゃんとわけがあるんだって! 僕と仲良くしてれば、ステラも気を許すと思って!」
「……ステラさんが?」
見ると、ステラの黒い目が真澄のことをじっと見つめていた。未だに隅で縮こまったままで、小さな耳をいっぱいに広げている。警戒されているのが真澄にもよくわかった。
「真澄が思うより、うさぎって賢いんだ。ちゃんと人を見てる」
「そういうことなら」
真澄は、今度は自分から晴にくっついて座った。
「ついでに、指示書の説明もしとこうか」
更に身を寄せ合い、晴が書いた飼育指示書を見た。もう少しで頬が触れ合いそうな距離にうろたえ、必死に素数を数えて煩悩を追い出す。
2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47――。
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