〈2羽〉

7/9
前へ
/88ページ
次へ
 晴はケージの扉を開けたまま壁際まで下がり、フローリングに直に座った。そして隣をポンポンと叩き、真澄を呼ぶ。  真澄はどきどきしながら、拳1つ半分の距離を置いて腰を下ろす。 「それじゃダメ」  真澄が敢えて開けたスペースを晴の方から詰めた。肩が触れ合い、真澄はびくりとして腕を振り上げる。 「待って待って! ちゃんとわけがあるんだって! 僕と仲良くしてれば、ステラも気を許すと思って!」 「……ステラさんが?」  見ると、ステラの黒い目が真澄のことをじっと見つめていた。未だに隅で縮こまったままで、小さな耳をいっぱいに広げている。警戒されているのが真澄にもよくわかった。 「真澄が思うより、うさぎって賢いんだ。ちゃんと人を見てる」 「そういうことなら」  真澄は、今度は自分から晴にくっついて座った。 「ついでに、指示書の説明もしとこうか」  更に身を寄せ合い、晴が書いた飼育指示書を見た。もう少しで頬が触れ合いそうな距離にうろたえ、必死に素数を数えて煩悩を追い出す。  2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47――。     
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加