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ステラは立ち上がって真澄の顔を見てから、自分でケージに入ってしまった。だが隅には行かず、暢気な顔で牧草を食んでいる。
「とりあえず大丈夫かな」
「そうなんですか? 触れませんでしたけど」
「怯えてたら小屋にこもって近寄ってこないよ。元々人見知りしない懐っこい子だし、もうそこまで警戒してないと思う。それにほら、ステラの目が優しくなった」
「優しく……?」
じーっと目をこらすが、真澄の目には『無』にしか映らない。
「さっきは、もっと目を見開いてた」
「ああ、確かに。頭叩いたらポロっと目が落ちそうでしたね」
「それすごいよくわかる例えだねえ」
晴は頭を真澄の肩に軽くもたれさせた。
「あれ、怒らないの?」
「ステラさんのためですから」
「ふふ、そっかあ」
晴のまなじりがでれっと下がり、口元がやさしくなる。可愛いともきれいとも言えない締りのない顔を見て、真澄はうっかり口を滑らせた。
「もっと仲良くしましょう」
途端、晴のまろい頬がぶわっと真っ赤に染まる。失言に気づいた真澄は、慌てて眉間に皺を寄せて睨んだ。
「勘違いしないでください。ステラさんと仲良くなりたいんですよ、俺は」
「あ、ああ、うん。そ、そうだよねえ。わかってるよ大丈夫! ステラのためだもんね! 仕方なくだもんね! うん!」
「ええ、そうです。そうに決まってます」
言いながら、真澄は内心ハーっと深い深い溜め息をつく。またつっけんどんな態度をとってしまった、と。
晴の説明を聞きながら、真澄は素数を数えた。
53 59 61 67 71 73 79 83 89 97 101 103 107 109 113――。
寄り添う2人の赤い顔を、ステラだけが見ていた。
〈続〉
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