〈3羽〉

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 ステラのケージはベッドのすぐ傍に置かれていた。窓から離れていて、陽射しもクーラーの風も、直接は当たらない。そしてステラに異常があればすぐにわかる場所だっあ。  ステラの無垢なまんまるい瞳が、真澄を見つめている。監視されているような、まるで晴に見られているような。そんな後ろめたさが、真澄の真澄をいとも簡単に沈めてしまった。  よっしゃ手間が省けたと、真澄は気を取り直してベッドから下りた。持ってきたボストンバッグを枕にして、床に寝転ぶ。幾分寝心地は悪いが、これで匂いは大分気にならない。爆睡すれば問題無いはず。幸いにも、眠りは深い方だ。  さあ寝ようと目を閉じ、うとうとと夢の世界に片足を突っ込んだ。  その、途端。  ダァーンッ! とステラが大きく跳ねる音がした。  なんだなんだと腹這いになり、頭の上のケージを見る。ステラはプラスチック製の三角のトイレにちょこんと乗っていた。座りこまずに、若干尻が浮いている。  ステラのトイレは三角形で、振り回し防止のフックでケージの網に固定されていた。そのため、飛び乗ると反動でブランコのように揺れて、ケージにぶつかってしまう。ケージの下は掃除しやすいように引き出しになっていて、その空洞のせいで、あらゆる音が猛烈に響くのだ。  やれやれ――と、真澄は頬をフローリングにくっつけた。生ぬるい。 部屋全体から香る真新しい畳のような青い匂いは、ステラの牧草の匂いだ。体臭の薄いステラ自身も、そんなような良い匂いがするのだと、晴の『うさぎのきもち!』に書いてあった。まだ、真澄は直接嗅いで確かめたことはない。いずれは、と思っている。  うとうと微睡みはじめたころを見計らってか、またステラがびょんびょんと跳ねた。すのことトイレを行ったり来たりして、木の小屋の上に乗ったり、飛び下りたりしている。  とにかく、ダァーンッ、グワァーン、モワァーンと金属とプラスチックが響いて喧しい。
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