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〈1羽〉
5月のとある週末――。
土曜日の夕食時、真澄がテレビのチャンネルを回すと、動物系バラエティー番組が始まった。白米をむっしゃむっしゃと食べながら、テレビの向こうでキャベツを食む子うさぎを見つめる。
うさぎは毛玉同然のこどもだった。ふんふんとしきりに動く丸い鼻面が愛らしい。時折、キャベツを食べる動きが急にピタリと止まり、またいきなりハムハムと忙しなく動き出す。
よくわからない謎の行動に真澄がきゅーんと癒されていると、電話がかかってきた。
毎週末の密かな楽しみを邪魔する不届き者の名前を確認しようと、真澄はスマホを見る。
「おや、珍しい」
スマホの画面には『朝比奈晴』と表示されている。
真澄はそこはかとなくぽっと顔を赤らめ、テレビの音量を下げてから、いそいそとスマホの画面をフリックした。コホン、と咳払いもしておく。
「なんですか、夕食事時に」
『あ、真澄? 僕だけど』
「人違いです」
『うそ! その声は絶対に真澄! 急にごめん。真澄に頼みがあって!』
「はあ? 俺があなたの頼みを聞くと思います?」
『あんまり思わない。でもこんなこと真澄にしか頼めないからさ。ね、頼むよ。お願いお願い!』
まるで縋るような声に、真澄はまたもきゅーんとした。
「ほーう。見返りによっては聞いてやらんこともないです。とりあえず、言ってみてください」
『10日間、うちのうさぎの面倒を見てほしい。お願い! 断らないで!』
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