〈3羽〉

3/6
前へ
/88ページ
次へ
「……どうかしました?」  たまらず、スマホの明かりを頼りにステラに声をかけた。  まさかステラが「今夜はオールですよ!」だとか「朝まで寝かせませんからね!」なんてお喋りするはずもない。ただ『無』が返ってきた。  ステラは真澄が呼びかける度に耳を動かしたり、鼻をひくつかせたりする。なんとなく反応はするが、本当になんとなく程度だ。聞き慣れない声に反応しているだけかもしれない。  ステラはただただ無表情で、行動からも目からも耳からも、真澄はなにも汲み取ることができない。まだコミュニケーションの取りようがなかった。だが、声をかけると一時的に暴れるのをやめるのだ。鳴くことはないが。  うさぎは、鳴く子はお前は豚かというほど鳴くが、鳴かない子は「もしかしてこの子ぬいぐるみなんじゃ……」というほど鳴かない――と、これも『うさぎのきもち!』に書いてある。  ちなみに、うさぎの鳴き声は「ぶぅぶぅ」か「ぐぅぐぅ」か「ぷっ!」がほとんどだ。まさに豚。残念ながら、にゃーとも、わんとも、ぴょんともちゅーとも鳴かない。  真澄が寝る体勢を取るたびにステラは暴れ、耐えかねた真澄が声をかけ、『無』で返され――そうこうしているうちに夜が明けてしまった次第。  ネイビーのカーテンの隙間から入って来る朝日が恨めしい。幽鬼のごとき眼差しで見つめても、太陽は後退もしなければ加速もしなかった。すべてを浄化するような、清々しい朝だ。なんということでしょう。  真澄は、先日の金曜日は大学の課題を前倒しで片していたため、ろくに寝ていない。土曜は晴の家に行くのが楽しみでほとんど眠れなかった。そして昨晩の蛮行。  今日は提出物の締切があって、サボれない。 「……まさか、1週間眠れないんじゃ」  はあ、とやつれ顔の真澄のそばで、ステラはすのこの上で腹這いになってすよすよと眠っていた。半目で。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加