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「それで? なんで俺が小悪魔でものすごくエロい性悪女に捕まったなんて、アホ丸出しなホラを吹いたんですか」
「はああ? 嘘じゃねーだろ。だってお前、昨日話してたじゃねーか! 俺はダチとして心配してだなあ……」
「昨日……? 身に覚えがありませんが。一体なんのことです?」
生憎と、小悪魔でものすごくエロい性悪女なんぞに割く時間を、真澄は持ち合わせていない。
「ほら、学食で、電話で!」
確かに、真澄は昨日学食で鈴井に会っている。真澄は首を傾げて、電話の内容を思い出そうとした。晴と話したことは一字一句違えず憶えている。しかし、心当たりがない。
「一晩中ハッスルしてたとか! 愛らしいとか! 彼女のためならなんでもするとか言ってただろ!」
周囲の目を気にせず、鈴井は大声を出した。1人ヒートアップしていく鈴井へ向けられる視線は冷たい。
真澄はようやくピンと来て、ごそごそと荷物からスマホを出した。少し操作して、すすっと鈴井に見せる。
「……なんだ、これ」
「俺、この子のためならなんでもできます」
「え、うさぎ……? これってうさぎだよな? ネズミじゃないよな?」
「うさぎですよ。どう見ても」
「なに、お前の言ってた彼女ってうさぎのこと!?」
鈴井に見せたのは、ステラの写真だった。
チモシーの穂の部分を食べている姿を、少し下のアングルから撮影したものだった。小さくて健気な口がよく映っていて、真澄は何度見てもうっとり見惚れてしまう。ステラは口周りが白いので、口元がピンクなのがよくわかった。
余談だが、画像フォルダは既にステラで埋め尽くされている。
草を食むステラ、顔を洗うステラ、こちらを見上げるステラ、腹ばいでうとうとするステラ――。
預かってまだ3日目だが、もう3桁に届きそうな勢いだ。ぶれた写真すら可愛い気がして、削除できないでいる。帰りに電気屋に寄ってSDカードを買う予定だった。
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