〈4羽〉

2/7
前へ
/88ページ
次へ
「それで? なんで俺が小悪魔でものすごくエロい性悪女に捕まったなんて、アホ丸出しなホラを吹いたんですか」 「はああ? 嘘じゃねーだろ。だってお前、昨日話してたじゃねーか! 俺はダチとして心配してだなあ……」 「昨日……? 身に覚えがありませんが。一体なんのことです?」  生憎と、小悪魔でものすごくエロい性悪女なんぞに割く時間を、真澄は持ち合わせていない。 「ほら、学食で、電話で!」  確かに、真澄は昨日学食で鈴井に会っている。真澄は首を傾げて、電話の内容を思い出そうとした。晴と話したことは一字一句違えず憶えている。しかし、心当たりがない。 「一晩中ハッスルしてたとか! 愛らしいとか! 彼女のためならなんでもするとか言ってただろ!」  周囲の目を気にせず、鈴井は大声を出した。1人ヒートアップしていく鈴井へ向けられる視線は冷たい。  真澄はようやくピンと来て、ごそごそと荷物からスマホを出した。少し操作して、すすっと鈴井に見せる。 「……なんだ、これ」 「俺、この子のためならなんでもできます」 「え、うさぎ……? これってうさぎだよな? ネズミじゃないよな?」 「うさぎですよ。どう見ても」 「なに、お前の言ってた彼女ってうさぎのこと!?」  鈴井に見せたのは、ステラの写真だった。  チモシーの穂の部分を食べている姿を、少し下のアングルから撮影したものだった。小さくて健気な口がよく映っていて、真澄は何度見てもうっとり見惚れてしまう。ステラは口周りが白いので、口元がピンクなのがよくわかった。  余談だが、画像フォルダは既にステラで埋め尽くされている。  草を食むステラ、顔を洗うステラ、こちらを見上げるステラ、腹ばいでうとうとするステラ――。  預かってまだ3日目だが、もう3桁に届きそうな勢いだ。ぶれた写真すら可愛い気がして、削除できないでいる。帰りに電気屋に寄ってSDカードを買う予定だった。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加