〈4羽〉

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「そんなに口開けたら、のどちんこ渇きますよ」 「ちんこって言うなばか。じゃなくて、え、え、待て待て待て。お前ら、昔っからケンカばっかっていうか、しょっちゅう泣かしてたろ。よくアイツが預けてったな……」 「俺しか頼る相手がいないそうです。だから引き受けました。可愛いじゃないですか。ほら、これ見てくださいよ」  真澄はまた、ずいっと鈴井に写真を見せた。今度は、晴が出発する前に撮ったものだ。ステラを抱いた晴の写真を見せられた鈴井は「えー」と声を上げた。 「いや、うーん。まあ、普通に可愛いけど。俺、特にうさぎ好きってわけじゃねーしなあ。そのへんの野良猫見ても同じこと思う自信あるぜ」  やれやれ、と真澄はスマホをしまった。 「鈴井さん、あなたは本当に目の付けどころが悪いですね。お飾りですか? ああ、その派手な頭の方がお飾りなんですね」 「あっのなあ、誰もがお前みたいな大の動物好きってわけじゃねえんだーっつの! ……あ、そろそろ行かねーと遅れるな」 「ええ。行きましょうか」  真澄と鈴井は揃って立ち上がった。2人は、ごくごくまれに授業が被る。自動販売機の前を通る際、鈴井が飲み物を買うと言いだした。真澄も足を止める。 「コーヒーかウーロン茶か……いや、炭酸の気分だな」  チャリチャリと硬貨を入れ、鈴井は炭酸のペットボトルを買おうとした――が、真澄がその隣のボタンを押してしまった。  ガシャコン、と缶が落ちてくる。  硬直する鈴井の代わりに、真澄が缶を取り出して手渡してやった。 「ちょ、おま、これ!」  黒っぽい赤い缶の『杏仁サイダー』だった。 「俺、これやなんだけど! クソ不味いじゃん!」 「すみません。わざとです」 『杏仁サイダー』  その名の通り、杏仁豆腐味の炭酸飲料だ。  10人中8人くらいは「不味い」と言う。2人のうち1人は「普通」と言い、残る1人が「美味い」と絶賛する。なぜ自動販売機で売っているかわからない、世にも恐ろしい代物である。
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