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周囲の音を拾おうと前後に開いていたステラの耳が、真澄の声を聞いてぴくりと動いた。ネザーランドドワーフに近いステラの耳は短いが、その機能は十分に果たしている。
「開けますよ、ステラさん」
真澄はステラの様子を窺いながら、そうっとケージのドアに手を伸ばした。指でドアの取手を持ち上げると、取り付けられたバネが微かに音をたてた。その音にステラは目をかっ開く。すさっと立ち上がり、両耳をピーンと立てて、真澄の方を見つめた。
真澄はステラを刺激しないよう慎重にドアを開けきる。
遮る金網がない、直接の対面。真澄はうさぎ並みの無表情でいたが、心の中では身悶えていた。
ステラに手を差し伸べる間も、どっどっどっと心臓が騒がしい。昔付き合いで行ったアイドルの握手会以上に緊張しきっていた。
「出てきてみませんか?」
声をかけたところで、ステラは『無』しか返さない。警戒していない気はしていたが、気がしているだけかもしれない。
ケージの中に手を差し入れ、ステラの額に触れようとした。だが。
――シュタッ!
まさにそんな身のこなしで、ステラは避けた。
真澄がもう1度、手を伸ばす。しかし。
――シュタッ!
さらにもう1度。やはり。
――シュタッ!
「そんなに嫌ですか……」
なんでもないような顔で、その実、真澄は大いに落ち込んでいた。
真澄の頭の中の真澄が「もういっそ、ガッ! と行きましょう。慣れますって」と囁く。しかし、また別の真澄が出てきて「それで怯えられたらあなた激へこみするでしょう」と冷静に述べた。
だが、もふもふ衝動VS魅惑のモフモフ愛されボディは、魅惑のモフモフ愛されボディの圧勝だった。きゅるんと愛くるしいステラの嫌がることなど、真澄にできるはずがない。
良いのだ。たとえ「捕まえてごらんなさーい!」とからかわれているのだとしても、天然の可愛いこそが正義。仕方がない。
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