〈5羽〉

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 周囲の音を拾おうと前後に開いていたステラの耳が、真澄の声を聞いてぴくりと動いた。ネザーランドドワーフに近いステラの耳は短いが、その機能は十分に果たしている。 「開けますよ、ステラさん」  真澄はステラの様子を窺いながら、そうっとケージのドアに手を伸ばした。指でドアの取手を持ち上げると、取り付けられたバネが微かに音をたてた。その音にステラは目をかっ開く。すさっと立ち上がり、両耳をピーンと立てて、真澄の方を見つめた。  真澄はステラを刺激しないよう慎重にドアを開けきる。  遮る金網がない、直接の対面。真澄はうさぎ並みの無表情でいたが、心の中では身悶えていた。  ステラに手を差し伸べる間も、どっどっどっと心臓が騒がしい。昔付き合いで行ったアイドルの握手会以上に緊張しきっていた。 「出てきてみませんか?」  声をかけたところで、ステラは『無』しか返さない。警戒していない気はしていたが、気がしているだけかもしれない。  ケージの中に手を差し入れ、ステラの額に触れようとした。だが。 ――シュタッ!  まさにそんな身のこなしで、ステラは避けた。  真澄がもう1度、手を伸ばす。しかし。 ――シュタッ!  さらにもう1度。やはり。 ――シュタッ! 「そんなに嫌ですか……」  なんでもないような顔で、その実、真澄は大いに落ち込んでいた。  真澄の頭の中の真澄が「もういっそ、ガッ! と行きましょう。慣れますって」と囁く。しかし、また別の真澄が出てきて「それで怯えられたらあなた激へこみするでしょう」と冷静に述べた。  だが、もふもふ衝動VS魅惑のモフモフ愛されボディは、魅惑のモフモフ愛されボディの圧勝だった。きゅるんと愛くるしいステラの嫌がることなど、真澄にできるはずがない。  良いのだ。たとえ「捕まえてごらんなさーい!」とからかわれているのだとしても、天然の可愛いこそが正義。仕方がない。
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