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真澄は一縷の願いを託し、ケージのドアは開けたままにした。少し離れたところから見守るに徹する。
噛まれて困るようなものは放置していないし、電気コードの類は晴の手で対策が施されている。うさぎはスマホの充電器のコードくらいならば、ひと噛みで切断してしまう。
「ステラさん、あなたは随分と晴さんに大切にされてるんですね」
羨ましいです、と続いた声は少しばかり虚しかった。
真澄は脇に避けておいた『うさぎのきもち!』をパラパラと捲った。既に読み込んで、大事そうなところには赤線が引いてある。
「この『うさぎのきもち!』にはうさぎのことも、ステラさん自身のことも、細かく書かれていますよ。あなたはおでこより、ほっぺたを撫でられる方が好きだとか。好物は小松菜の葉とバナナなんですね。でも小松菜は茎を与えてもぺいっと捨ててしまう」
食欲不振の時のために、好物を把握しておくのは大事なことだ。手に入れやすい小松菜、水菜、サラダ菜、大根葉、リンゴ、バナナ――。
うさぎといえば、キャベツとニンジンのイメージが強い。だが実際、この2種はおなかを壊す危険があるため、要注意の野菜でもある。絶対に与えてはいけないわけじゃない辺りが、厄介な点でもあった。犬や猫と同じく、ネギ類、チョコレート、ジャガイモ辺りは絶対に与えてはいけない。
「晴さんは俺の好物なんてきっと知らないでしょう。ステラさん、知っていますか? 晴さん、紅茶は頑なにストレートでしょう? あれ、俺のせいなんですよ。昔あんまり甘いミルクティーばかり飲むんで、腹回り摘んで肉牛にでもなるんですかって言ったんです。そしたらストレートしか飲まなくなったんです」
ふうん、なんて相槌は返ってこない。
ステラは空のご飯皿をつついていた。うさぎのご飯皿は振り回し防止のために陶器製か、固定製かのどちらかだ。ステラのご飯皿は陶器製で、ピンクのハート型。ハートの中には日々愛情がいっぱい注がれている。
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