〈5羽〉

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「そういえば、昨日はどこまでお話しましたっけ? 晴さんが熱々おでんのちくわをストロー代わりにして火傷した話しましたっけ? それとも、中学の時の遅刻の言い訳シリーズ話しましょうか。俺のイチオシは中3の時の『ゆっくり来た』ですね」  真澄が学生時代を振り返ると、傍には晴の姿があった。 「晴さんとは、小学校から一緒なんですよ。小5の時、俺が転入して来たんです。隣の席が、晴さんでした」  真澄は好きに見ていいと言われている本棚から、小学校のアルバムを取り出した。  出会ったばかりのころから、あまり顔立ちは変わっていない。当時から真澄の方が背が高く、うなじや鎖骨が見えるたびに真澄の単純な理性はクラクラしていた。口にしたことはないが。 「まあ、出会いは微妙でしたがね。あの人、初対面の俺になんて言ったと思います? 『きみも、保健体育の教科書はえろ本だと思う?』ですよ。アホなんですかね」  出会いは微妙だった。  だが、なんだかんだ交友関係は続いている。中学も高校も一緒で、何度かは同じクラスになったこともあった。大学も同じだが、広い敷地内で顔を合わせることはあまりない。鈴井や高野を交えて遊ぶことも減ってしまった。  メッセージアプリや電話ツール、SNSはこんなに身近にあって慣れ親しんでいるのに、晴を近くに感じることはできない。 「俺は先日まで、晴さんがステラさんを飼い始めたことさえ知りませんでした」  年々、晴が遠くなっていく。なんとなく10年続いた交流も、あと数年後、社会に出たら途絶えてしまうのかもしれなかった。 「10年……。もう潮時、なんですかね」  真澄は手元のアルバムに目を落とした。晴の最近のアルバムに、真澄の姿はない。自分の知らない友人達の真ん中で、晴が笑っている。 「晴さ――」 ――ガンッ!
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