〈5羽〉

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 音を拾うために、うさぎは常にぴんと耳を立たせている。そのために、凝ってしまうのだ。人の肩コリと同じで、軽く揉まれると気持ちよく感じる。だが、体温調整の役割も持っている耳は大事な血管がたくさんあるため、絶対に乱暴に扱ってはいけない。  真澄は親指と人差指で片耳の付け根を挟み、親指で円を描くように動かした。優しく、優しく。丁寧に。 「気持ちいいですか?」  ステラは腰を下ろし、やがて腹這いになってしまった。後ろ脚は無防備に放り出すように伸ばされている。嫌がっているようには見えない。目がとろんとして、とても落ち着いていた。  真澄は左手で、逆の耳も同じように揉む。痛みを与えないよう、ステラの目を見ながら、慎重に行った。  それから人差し指の背で、目の下――頬のあたりを撫でる。鼻先の方から耳の付け根を軽く撫でると、ステラは心地良さげに目を閉じてしまった。もごもごと、口が動く。  真澄もうっとり、ステラを見つめる。 「寂しいんですね。晴さんがいなくて」  おそらく、晴はステラと暮らし始めてから、夜遊びに繰り出していない。ステラの夕飯は7時で、掃除と水換えも夜。寝る前にステラが遊ぶ時間を設けていると言っていた。 「もう4日になりますか。あなたにとっては、やっと、ですかね」     
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