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「好きですよ」
鈴井は遠慮がちに聞いたが、真澄はけろっと言った。鈴井の手からスプーンが落ちる。
「お前……! お前、マジでか! オレが知らないだけで、実は晴って女だったり?」
「しませんよ。マジです。好きです。出会ってから、ずっと」
「初耳だぞ、オイ……。10年近い片想いとか、温めすぎて発酵すんぞ……」
「そういえば初めて言いましたね。今まで聞かれませんでしたから」
「オレは察してたよ。ずーっと好きだよな、晴のこと」
真澄はカレーを口に運んだ。むっぐむっぐと頬が動く。カレーで膨らんだ真澄の頬が、そこはかとなくぽっと赤らんだ。
だが鈴井はそのことに気づかずに、スプーンを持ち直した。気づかない程度の変化だった。
「どーりでモテるのに彼女作らねーわけだ……。つーかお前、よく好きな子に暴言吐けるよな」
「ねえ、やめませんか。野郎同士で恋バナなんて気色悪い」
心底気色悪いという顔で真澄が言った。そこに照れや恥じらいの色はない。
「まあまあ。でもいざという時に連絡取れないと困るよね。大事なうさぎ、預かってるわけだし」
「あー、それもそうだな」
「ええ。今のところ、問題はないですが」
「ステラちゃんってどんな子? 可愛い?」
待ってましたと言わんばかりに、真澄はステラの写真フォルダを開いた。今朝撮影した動画を高野に見せた。それは耳を舐めている動画だった。
撮影したのはケージの中だった。
ステラが後ろ脚で座り、前のめりになって首を傾げている。丸い体が更に丸まっていて、まるで綿毛のようだった。
ステラは短い耳を精一杯口元に持って行くと、髪でも梳くように、小さな前脚で片耳ずつ毛づくろいをする。耳のほんの先っちょだけを、ぺろぺろと小さな舌で懸命に舐めようとしていた。
耳が短すぎるのか、不器用なのか、たまに舌が届いていない。ピンク色の舌がちろちろと動いている。
そんなつたない姿にも、真澄はきゅーんとする。
「このエア舐め、最強に可愛くないですか?」
「可愛い! 猛烈に可愛い! ああ、手伝ってあげたい!」
「わかってくれますか、高野さん」
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