71人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
真澄はゴミをベランダのゴミ箱に入れ、サークルを回収した。ステラは軽やかに跳躍し、ケージの中に戻っていく。ステラがジャンプで美しい弧を描くのを見るたび、真澄は『ふるさと』の歌を脳裏に描いてしまう。
ふんふんとヒノキのチップの匂いを嗅ぐステラの姿に、真澄は目を細めた。
「お水も換えましょうね」
ケージの外側に取り付けられた給水ボトルを取り、風呂場でボトルと吸い口を濯いでから水を入れた。水も毎日取り換え、汚れやすい給水ボトルも清潔に保たなければならない。部屋に戻って設置し直し、一息つく。
「俺も慣れてきましたかね」
ステラと暮らし始めて5日がたった。折り返し地点。
世話に時間は取られるが、真澄にとって、家で誰かが自分を待っていてくれる生活は幸福そのものだ。しかし、そんな生活もあと5日間。
「……今のうちに、もっと写真を残しておかなくては」
放っておいたスマホを見ると、チカチカとランプが点滅していた。立て続けに不在着信が2件。しかし、晴からではない。折り返しかけると、相手はすぐに出た。
「高野さん? どうかしましたか?」
『あ、真澄? 晴が返事くれない理由、なんとなくわかったよ。なんとなくだけど』
「は?」
『真澄が小悪魔でものすごくエロい性悪女に捕まったって噂が、晴の耳にも入ったっぽい』
「……つまり?」
『多分、大事なうさぎを預けた真澄が、自分の家に性悪女を連れ込んでるって思ってるんじゃないかな?』
真澄から迸る殺意もなんのその。ステラは平和そのものな顔で舟を漕いでいた。
〈続〉
最初のコメントを投稿しよう!