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真澄のスマホを握る手に力がこもる。
ある種の信頼を獲得していた喜びと、好きな人にありもしない噂を付け足されていた落胆がバチバチと火花を散らす。
『あはは! 真澄ってモテるのにそういう噂なかったから、なんか面白くって。もしかして、気にして電話くれたの?』
「まあ、そうですね。あなただって自分の家をホテル代わりにされたら面白くないでしょう」
『真澄はそんなことしないってわかってるから。なんやかんや言いつつ、不義理はしない』
「それならいいんです。一昨日送ったメッセに反応がなかったんで、もしや鵜呑みにしたのかと思ってただけなので」
『あー、ごめんごめん。ちょっと予想外のことでトラブって忙しくて……』
「そうですか」
忙しいだけじゃないかという鈴井の思った通りであったことは癪だが、胸のつかえが取れて真澄はフローリングに寝転がった。徹夜明けの疲労が体にのしかかる。
ケージで毛づくろいしていたステラが「なになに?」と、真澄の方に寄ってきた。
金網の隙間から人差し指を入れて、小さな頬をちょいちょいと撫でる。もっともっと、とせがむように、ステラが頭を下げた。真澄の頬が自然と緩む。
『真澄、ありがとうね』
「なにがです?」
『真澄から送られてくるステラね、リラックスしてる。可愛がってくれてるんだなって、わかるよ。だから、ありがとう』
真澄の心の中で火花を散らしていた喜びと落胆は、喜びの方が勝った。それはもう圧勝であった。それに加えて、ステラが懐いてるとわかって安心もした。
うさぎにまつわる迷信は色々あるが、その中に『さみしいと死ぬ』というものがある。これは嘘でもあり、本当でもある。どういうことかといえば、うさぎの個体差が大きく左右されるからだ。
飼い主の不在は、多かれ少なかれ、うさぎにストレスをもたらす。過度のストレスから体調を大きく崩し、死に至ることがある。
だからといって、すべてのうさぎがそうというわけではない。繊細で飼い主によく懐いている個体ほどストレスを感じやすく、単独でいることを好む個体ほど感じるストレスは少ない。
真澄がひっそり喜びを噛みしめていると、『ねえねえ』と晴が窺うように切り出した。
『そういえば、真澄ってさ――』
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