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講義前。
真澄が大学のラウンジで読書して時間を潰していると、目の前にさっと紙袋が置かれた。顔を上げると、決まりが悪い様子の鈴井が「よう」と言った。
「なんですか、これ」
上品な薄桃色の紙袋には『うさぎ庵』と書かれていた。うさぎ庵は、真澄の生家があった場所の近くにある和菓子屋だ。
鈴井は真澄の前の席に腰を下ろし、潔く頭を下げた。
「あー、変な噂流して悪かったな」
鈴井の旋毛を見て、真澄は大体のことを察した。晴が勘違いしたかもしれないと高野から聞いて詫びているのだと。
否定はせず、かといって肯定もせず、真澄は紙袋の中身を見聞した。
浅葱色の包装紙を剥き、白い箱の蓋を開ける。中身はどら焼きだった。粒あん、こしあん、桜あん、抹茶あんの4種類8個入り。ひとつひとつに、うさぎの焼き印がしてあった。
真澄は粒あんを1つ鈴井に渡し、自分は抹茶あんの包装紙をペリペリと剥がした。ほっとした様子の鈴井も、もそもそと粒あんのどら焼きを食べる。
「朝、これ持ってお前の家に行ったんだぜ。どこ行ってたんだよ」
「ああ。今、あの家にいないんですよ。用があるなら学校で捕まえるか、先に連絡入れてください」
「え、お前どこいんだよ。実家、じゃないよな。つか、うさぎは?」
「晴さんの家です」
「はあ!?」
驚いた鈴井の口からどら焼きのカスが飛んだ。真澄はうっすらと眉を顰める。
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