〈8羽〉

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「ステラさんのことが好きなのは本当ですよ。これまで犬派か猫派か聞かれたら猫派と答えていたのですが、これからはうさぎ派って言いますからね。あなた自身のことも好きなんですが、晴さんの大切な子だと思うと……それだけで、愛おしくなります」  さて、と真澄はステラを一旦ケージに戻した。 「愚痴りたい気分なんです。良いもの差し上げるので、もう少しつきあってください」 そう言い残し、真澄はキッチンに行った。イスにかけておいた近所のスーパーの袋から、茶色い斑点の散るバナナを1本出した。 『うさぎのきもち』曰く、バナナはステラの好物だ。真澄はまだ与えたことがなかったが、ステラはバナナがそれはもう、すごくすごくすごく好きらしい。しかし高カロリーで嗜好性も高いバナナの与え過ぎは危険だった。 薄く3枚ほどスライスして、あとは真澄がその場でぺろっと食べてしまう。数枚のバナナを手に部屋に戻ると、なにかを察していたらしいステラが立ち上がって真澄を見ていた。 「すごい反応ですね。匂いでわかるんですか?」  ケージを開けると、弾丸のようにビュンっと飛び出したステラは真澄の脚に纏わりついた。真澄はバナナを盗られないように、片手を上げたまま座る。するとステラは膝の上に乗って来た。ステラの焦げ茶色のまん丸い目がきらきらと輝く。 「そんなに可愛い顔してもダメですよ。一気にはあげません」  真澄は勿体ぶって、バナナを1枚だけ差し出した。ステラが活き活きとバナナにがっつく。 「俺は、晴さんとつきあいたいとか、そういうんじゃないんですよ。男同士ですし、だって恋人の行きつく先は夫婦――家族でしょう。家族なんて、碌なものじゃない。誰かが離れたくなっても、簡単には離れられないんですから」
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