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〈9羽〉
〈9羽〉
真澄は、晴とつきあってるわけではない。
つきあう予定も、つもりもない。いつか晴に彼女ができる日が来ることも覚悟の上で、なんなら結婚式の招待状を受け取る覚悟さえしていた。
式に呼ばれたら出席して、幸せそうな新郎新婦の顔を見て祝福しようとさえ思っていた。指名されるかわからないが友人代表のスピーチだってしてもいいと思っているし、子供ができれば抱っこしに行くつもりでもいる。
だから、自分が晴の眼中にないくらいなんでもないことだ。晴が誰を好きでも、真澄が晴を好きな気持ちは変化しようがない。いつかくる別れまで腐れ縁の友人でいられたらと思っていた。そのはずだった。
下降していく気持ちに歯止めをかけるように、『ぴろりん』とテーブルの上のスマホの音がする。メッセージの送り主は、晴だった。
『今ちょっといいー?』
『別に良いですけど』
そっけなく返事を送ると、ほどなくして電話がかかって来た。真澄は壁に凭れて、ぴょんぴょんと遊んでいるステラを見守りながら電話に出た。
『もしもし、真澄―?』
「俺に決まってるでしょう。どうかしたんですか?」
『ううん。ステラ、どうしてるかなーって思って』
「今、遊んでるところですよ。後ろ脚を振り回しながら跳ね回ってます」
ステラは縦に大きく跳躍し、ダーッと走ったかと思えば、ガッと急停止する。下手な操り人形のような、緩急の激しい動きを繰り返していた。
『あはは。ステラ、ご機嫌だね~。写真とか見てたら、2人が仲良さそうでちょっと妬けた。うん、でも、元気そうで良かった。……会いたいなあ』
晴の言う通り、ステラはご機嫌だった。しかし、真澄には今の晴の声が正反対のものに思えた。
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