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「晴さん、なにか問題でもありました?」
『え、なんで?』
「いえ、なんとなくそんな気がしただけです。俺の気のせいなら忘れてください」
『あー、うん。ちょっと……ちょっと、うん。もしかしたら、そっちに帰るの遅くなるかもしれなくて……』
湿っぽさが含まれた、ふてくされたような声だった。真澄はぱちぱちと瞬き、晴がどんな顔をしてるか想像する。
「それは、ここに着く時間がってことですか?」
『そうじゃなくて、火曜日に帰る予定だったけど、その日、帰れないかもしれなくって……』
「ああ、そういう。つまり、預かるの延長ですか」
晴の帰宅が遅くなる。ステラと暮らせる時間が伸びるのは嬉しいが、晴には会えない。喜びと落胆が混ざった、淡々とした声だった。
『うん……。ごめん、ほんとごめん。真澄の都合もあるし、前言ったみたいにどっかペットホテルとか、それか預かってくれそうな人とか、ちゃんと探すから』
「いえ、いつまでになるか知らないですけど、俺が預かりますよ。ホテルなんて費用も嵩みますし、信用できないのでしょう。ステラさんが重荷とか、そういうことはありませんので」
『うん、ありがと……』
「ステラさんのためですから」
『ほんと、助かる。ごめん、ありがとう』
預かってくれそうな人、と真澄は考える。その筆頭は、誰だろうか。晴と話して上向いた真澄の気持ちが、再び急降下する。
「留守にし過ぎて、帰ってきたら、ステラさんに忘れられてるかもしれませんよ」
しばしの沈黙。
言ってしまってから、真澄は内心慌てた。しかし訂正するより早く、晴が大きく息を吸う音が届く。
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