〈9羽〉

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 無心で勉強に取り組むことで問題から離れ、客観的になることができる。そう思って、真澄は大学の課題に取り組んでいた。  しかし昼過ぎになって、空腹で集中力が切れてしまった。  冷蔵庫を見るとほとんど空で、だからと言って外食する気にはなれない。仕方なく、真澄は鈴井からもらったどら焼きに手をつけた。パソコンの前で、抹茶あんを無心で食べる。続いて、桜あんも。3つ目に手を伸ばしたところで、ポケットの中のスマホが震えた。  真澄の空っぽだった頭に思考が戻ってくる。  ポケットからスマホを引っ張り出し、おそるおそる画面を見る。着信だ。相手は鈴井だったので、そのままテーブルに放置した。少しして振動は止まったが、間を置かずにまた震えだす。 「間の悪い男ですね」  麦茶で喉を整えてから、真澄は電話に出た。 「なんですか。しつこい男は嫌われますよ、鈴井さん」 『お前は普通に「もしもし、イケメンな鈴井くん、僕になにかご用ですか?」って出れないのかよ』 「俺の知り合いにイケメンな鈴井くんとやらは存在してませんので」 『ほんっとに、お前はもー! あーいえば、こーいう!』  キーン、と鈴井の声が真澄の耳をつんざく。真澄はスマホを耳から離して、続く鈴井の文句を聞き流した。 「うるさいですよ。俺、課題やってる途中なんですから。来週〆切ですけど、鈴井さんやってます? この教授、期日過ぎたら絶対に受け取ってくれませんよ」 『今度写させてくださいお願いします』 「貢ぎ物に期待してます。そのことで電話してきたんですか?」 『ちげーよ!』  キーン、と鈴井の声が以下省略。
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