〈10羽〉

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〈10羽〉

〈10羽〉  転入生を前に、晴は内心で慌てていた。 「きみも、保健体育の教科書はえろ本だと思う?」  先ほど、転入生の真澄はニコリともせず黒板の前で挨拶をした。真澄には目も鼻も口も眉もあるが、晴の目にはのぺらぼうに映った。  真澄が隣の席に座り、なにか声をかけなければ、と晴は少し焦った。少しの焦りが呼び起こしたのは、鈴井がHR前に話していた内容だった。  それが、『きみも、保健体育の教科書はえろ本だと思う?』に繋がる。 「あ、えっと」  晴が別の話題を探していると、真澄の前の席の鈴井が振り返った。 「えろ本だよな!」  そう言った鈴井は、件の保健体育の教科書を手にしていた。晴は鈴井の足を蹴り飛ばそうとしたが、そこまでは届かない。 「そんな風に考えたことありませんでした。面白い見方ですね」 「だろだろ! ほら、この裸の絵とかよ」 「それ、俺には動物図鑑っぽく見えます」  真澄が思いのほか食いついたのが、晴には意外に思えた。呆れるわけでもなく、顔を赤くするわけでもなく、真面目な顔で意見を述べている。無表情のようだが、のっぺらぼうではなかった。 「お前、頭おかしくておもしれーな! オレ、鈴井賢人。賢い人でケントな。気軽にケント様って呼んでいいぞ」 「名前負けしてる鈴井さんですね。よろしくお願いします」 「名前負けしてるって言うな!」  真澄は、ぎゃんぎゃんと吠える鈴井を知らんぷりした。晴と目が合い、首を傾げる。 「晴! 朝比奈晴。晴でいいから」 「よろしくお願いします、晴さん」  のっぺらぼうだった真澄が、そこはかとなく笑っていた。 ◆◇◆◇◆
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