〈10羽〉

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 晴の頭にこれまでの真澄の姿が呼び起こされる。  三者面談の日、真澄は母親と一緒という気恥ずかしさとは全く別の浮かない顔をしていた。運動会の日、真澄は1人教室で食べていた。授業参観、ますみの家族は来ていなかった。晴の目には、そういう時の真澄がいつものっぺらぼうに見えていた。 「真澄……っ」  たまらず、晴は真澄を抱きしめた。抱きしめた大きな身体は冷たく、晴は肩に顔を押し付けて涙をこぼした。  いつもの真澄なら「鼻水つけないでくださいよ」とか「なんですか、こども返りですか」と悪態をついていた。そう言われるかもしれないと、晴も思っていた。けれど、真澄はなにも言わなかった。お互いに、息がひきつったように震えている。 「ますみ」  真澄の孤独が移ったように、晴は心細くなる。  世界中でたったひとり、この人で溢れた広い世の中でひとりきりになったような錯覚。人込みの中にいるのにひとりぼっち。人との繋がりの生命線であるはずの家族さえ、真澄にはいない。 「ま、すみ……っ!」  晴は真澄を見上げた。もう彼はのっぺらぼうではなかった。名前を呼ぶだけで、傍にいるだけでのっぺらぼうでなくなるなら、晴はいくらでも傍にいて名前を呼びたかった。 ◆◇◆◇◆
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