〈10羽〉

5/7

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
◆◇◆◇◆  日曜日――。  晴が都会を離れて8日目になる。初日には新鮮に映った一面のキャベツ畑も、1週間もたてば日常の一部になる。24時間営業のコンビニも全国チェーンのコーヒーショップも、近隣にはなかった。  代わりにあるのは、畑、山、畑、畑、たまに民家、また畑。あとは川。  青々とした畑の脇の土手に座り込む晴の背中を、午後のうららかな日差しが温めていた。晴は鳴らないスマホを大事に抱えている。 「バカ、はないよなあ……」  晴は、昨日の昼間に八つ当たりしてしまったことを気にしていた。逆に真澄に「馬鹿」だの「粗忽者」だのと言われても、「はいはい、そうですね」と大して気にしない。言いなれていないから気になるのかもしれなかった。 「あー、帰りたーい!」  晴は寝転び、手足をばたつかせた。畑仕事をしている隣の家の吉田さんが「なしたー?」と声をかけてきた。手を振って「なんでもなーい!」と返すが、なんでもないわけじゃない。  ステラと真澄は仲良くやれているようなので、その点の心配はしていなかった。  真澄の言う通り、このままだとステラに忘れられてしまうかもしれない。家に帰ってステラに触ろうとして逃げられたら泣いてしまう。真澄の後ろに隠れてしまったら、号泣する自信がある。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加