71人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
癒しを求め、晴は暇を見つけてはスマホを眺めていた。
キャベツ畑もミツバチもミミズも蝶も、晴を癒しはしない。夜になればカエルがゲコゲコと大合唱し、祖父の家の薄い壁では心もとなかった。その上、風が吹けば近くの牧場の臭いが流れてくるので、空気が美味しいかどうかも微妙であった。
真澄から送られてくる動画や写真こそが、晴を癒している。
ぴょんぴょんと飛び跳ねるステラの動画を見る。ステラは少しどんくさいところがあって、はしゃぎすぎると着地に失敗して転んだりすることがある。そのたびに、真澄のほとんど吐息のような笑い声が入っていた。
「……ん?」
動画が不自然に止まったと思ったら、着信画面に切り替わった。表示された名前を見て、晴は跳ね起きる。電話の相手は真澄だった。
「もしもし、真澄?」
『ええ、俺ですよ』
「……詐欺?」
『あなたの大切なステラさんは預かりました』
「誘拐犯のバイト始めたの?」
『失敬な。ところで、晴さん今どこですか?』
「どこって……吉田さんの家のキャベツ畑?」
いくら見渡せど、目印になるようなものはないのだ。地図アプリで見ると、この辺一帯が緑で覆いつくされているほど。
『そうですか。……そこで首を洗って待ってろ』
それきり、電話は一方的に切られてしまった。
「はあ……?」
スマホを見つめ、晴は首を傾げた。
待ってろ、の意味を考える。まさかここに来る気――なわけがない。今からここに来るとなると、夜になってしまう。夜はステラの世話があるから外出は控えなければ――。
最初のコメントを投稿しよう!