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言い捨てて、真澄はひゅんっと踵を返した。ぴゅーっと少し行ったところで、土埃に塗れた白い軽トラが真澄を待ってくれていた。先ほど駅前で出会って、親切にもここまで送ってくれたのだ。
「どうだ、上手くいったか?」
「さあ、どうでしょうか。まあ、なるようになるでしょう」
真澄はなんでもない風を装って言った。その実、軽トラが走り出してからも心臓はばくばくしている。
「でも、言えて良かったです」
「そうかそうか。何年片想いしてんだ?」
「もう10年近くになりますかね」
「そんなにか! 10年とか、そりゃ大事に温めすぎだろう」
「ですね。長いこと温めすぎて、もう発酵してるかもしれません」
「発酵なら大丈夫だ。美味しく食べれる」
運転手は、がっはっはと笑って鼻歌を歌い出した。
真澄は常にドキドキしているだとか、晴がやたらキラキラし見えるだとか、そういう風には思わない。さっき会ったばかりなのに、それなのに、早く晴に会いたかった。
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