〈11羽〉

2/7

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 言い捨てて、真澄はひゅんっと踵を返した。ぴゅーっと少し行ったところで、土埃に塗れた白い軽トラが真澄を待ってくれていた。先ほど駅前で出会って、親切にもここまで送ってくれたのだ。 「どうだ、上手くいったか?」 「さあ、どうでしょうか。まあ、なるようになるでしょう」  真澄はなんでもない風を装って言った。その実、軽トラが走り出してからも心臓はばくばくしている。 「でも、言えて良かったです」 「そうかそうか。何年片想いしてんだ?」 「もう10年近くになりますかね」 「そんなにか! 10年とか、そりゃ大事に温めすぎだろう」 「ですね。長いこと温めすぎて、もう発酵してるかもしれません」 「発酵なら大丈夫だ。美味しく食べれる」  運転手は、がっはっはと笑って鼻歌を歌い出した。  真澄は常にドキドキしているだとか、晴がやたらキラキラし見えるだとか、そういう風には思わない。さっき会ったばかりなのに、それなのに、早く晴に会いたかった。 ◆◇◆◇◆
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加